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暴言・暴力のすごいADHDに対してどうするか?

こんにちは、まえぴです。

どんな障害・特性をもつお子さんも大変なのですが、ADHD(注意欠陥多動性障害)のお子さんって扱いにくいですよね。何が大変かというと、他のお友達に言葉で傷つけたり、叩いたりして怪我をさせてしまうことです。「忘れ物が多い」とか「片付けができない」という特性は、本人や家族のことで済みますが「暴力・暴言」は特性であっても、許しがたいものです。放課後等デイサービスなんかでは、このADHDの診断が下っている子を怖がって、行きたくないと言う子もいますし、言葉が話せる子は、お家に帰って、あの子にたたかれた、押されたとか、あることないこと言うので(暴力があった際は、もちろん親御さんには伝えますよ)、子供の安全、経営のことを含めて、対応に困るものです。だから「うちでは見れません」ってあちこち事業所に断られ、転々と利用する場所を変える子もいます。ADHDの子供たちは、基本的に知的能力は高めなことが多いです。それだけに、この障害によって生じる落ち着きのなさや不注意といった行動は、本人の性格の悪さ、親のしつけの不十分さ、といった誤解があります。ADHDの病態を調べてみると、脳の機能障害であることがわかりますので、「本人の心がけの悪さや親のしつけのなさ」だけではないことがわかります。ADHDにもいくつかパターンがありますので、いちばんやっかいそうな、暴力・暴言といった他害への対処法を考察していきたいと思います。最初に述べておきますが、私もこれが正解だ!っていう対処案はわかりませんでした。ただ、ADHDに関する知見については多くまとめましたので、参考してみてください。

 

目次

ADHDの定義

注意欠如・多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder; ADHD)は、「注意」、「多動」、「衝動性」を主な症状とし、3つの病型(混合型、不注意優勢型、多動性ー衝動性優勢型)に分類されます。

厚生労働省の定義では

 ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
 また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

※ アメリカ精神医学会によるDSM‐4(精神疾患の診断・統計マニュアル:第4版)を参考にした。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/shiryo/attach/1361233.htm

と表記されています。

以下のDSM-Ⅳ の基準にどこに該当するかによって、混合型、不注意優勢型、多動性ー衝動性優勢型のどれかの分類が決定されます。

基準 A1:不注意

<不注意>

  • 学校での勉強で、細かいところまで注意を払わなかったり、不注意な間違いをしたりする。
  • 課題や遊びの活動で注意を集中し続けることが難しい。
  • 面と向かって話しかけられているのに、聞いていないようにみえる。
  • 指示に従えず、また仕事を最後までやり遂げない。
  • 学習などの課題や活動を順序立てて行うことが難しい。
  • 気持ちを集中させて努力し続けなければならない課題を避ける。
  • 学習などの課題や活動に必要な物をなくしてしまう。
  • 気が散りやすい。
  • 日々の活動で忘れっぽい。

基準 A2:多動性―衝動性

<多動性>

  • 手足をそわそわ動かしたり、着席していてもじもじしたりする。
  • 授業中や座っているべき時に席を離れてしまう。
  • きちんとしていなければならない時に、過度に走り回ったりよじ登ったりする。
  • 遊びや余暇活動におとなしく参加することが難しい。
  • じっとしていない。または何かに駆り立てられるように活動する。
  • 過度にしゃべる。

<衝動性>

  • 質問が終わらないうちに出し抜けに答えてしまう。
  • 順番を待つのが難しい。
  • 他の人がしていることをさえぎったり、じゃましたりする。

厚生労働省HPより一部改変

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/shiryo/attach/1361233.htm

 

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ADHDの病型

 「しつけが悪い」といわれることが多いのが、多動性ー衝動性優勢型ですので、不注意の基準A1には該当しないですが、基準A2に該当していることになります。

 

ADHDのメカニズム

一番最近提唱されたADHDの病態としてTriple Pathway model があります。このモデルは、以前から指摘されていた実行機能障害と遅延報酬障害を唱えるDual pathway modelに時間処理障害の概念を加えたものです。イメージは下の画像のような感じです。

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Triple Pathway modelにおけるそれぞれの障害の割合(研究対象人数=71人)


出典:

Sonuga-Barke, E., et al. (2010). "Beyond the dual pathway model: evidence for the dissociation of timing, inhibitory, and delay-related impairments in attention-deficit/hyperactivity disorder." J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 49(4): 345-355. 一部改変

上の画像のパーセントの分布のように、各障害の重複はまれであり、時間処理障害が最も多いという結果が報告されています。

実行機能障害

実行機能とは、物事を論理的に考えたり、順序立てて考えたり、状況を把握して行動に移す思考・判断力のことです。物事を効率よくこなす力とも言います。つまり、実行機能障害とは、段取りの悪さとも言えます。ADHDでは、前頭前野を中心とした皮質の成熟の遅れが認められています(Pironiti V A, et al, 2016)。

 

遅延報酬障害

遅延報酬の獲得を待てず、衝動的に代替の報酬を選択する反応や、報酬を得るまでの主観的な時間を短縮するために注意を他のものにそらす、気を紛らわすための代償行為を行うといった、不注意や多動に基づく行動として現れる。(岡田 俊:ADHDの神経生物学的病態. 小児科臨床 61:193-199、2008 より引用)

報酬系の障害ともいわれます。報酬系とは、「意欲」、欲求を満たしたときに、気持ちいい、満足といった感情を生み出す脳の部位で、この報酬を手に入れるために行動に起こす脳のネットワークです。遅延報酬障害は、待つことができないとも言えます。

時間処理障害

 時間処理障害は、「運動のタイミング」、「時間の見積もり」、「時間的な見通し」の3点から主に考えられることが多いです。具体的な実験研究(Sonuga-Barke, E., et al. (2010)).では、

・同じペースでボタンを押し続ける課題

・音の感覚の長短を聞き分ける課題

・画面上でいつ目標物が現れるのかを予測する課題

といった時間処理課題で、ADHD児・者のほうが有意に低い成績を示すことが報告されています。

暴力・暴言に対しての対処案

感覚刺激に対する過敏性や特定の感覚を欲する特性(Sensory needs)が影響していることもあります。また、脳幹毛様体賦活系における覚醒の調整が関連あるとされ、ADHDは日中眠気が強く、覚醒が低い傾向にあることも言われています。これは、いろんな書物やサイトに書いてあって、よく言われていることですが、一見すると覚醒が低い状態には見えないことが多いかと思います。これには、状態像の理解が必要です。覚醒レベルが大きく低下している状態では、外からの刺激があっても反応しにくく、やがて眠ってしまいます。しかし、多くはわずかに覚醒が低下している場合なのです。言い換えれば、脳の機能として、外から感じる刺激の閾値が上がっている場合、

刺激が足りなくてぼんやりした状態になってしまい、課題に取り組むだけのエネルギーが供給されません。その子供は適切な覚醒状態を維持するために感覚刺激をたくさん入力する必要があるので、体をたくさん動かしたり、あたりを動き回るために多動になりがちです。(佐藤剛編:感覚統合Q&A:161、協同医書出版社、1999) 

 という状態になってしまいます。

一方で、覚醒レベルが高い状態、いわゆるテンションが高い状態から生じる「落ち着きのなさ」、「衝動性」もあります。

 

暴力・暴言の対処案については、覚醒レベルが高い状態を想定して考察していきます。

まず、「暴力」という行動に至らせる衝動性の沈静化を図ります。方法は、子どもを寝かしつけるときに使う感覚を意識して入力させていくことです。

それは、前庭感覚(ゆっくり揺らす)、聴覚刺激(落ち着いたトーン)、(触覚・固有感覚)圧を加えるように触る、軽くたたく(ポンポンする感じ)を入力していくことです。

なお、ADHDの子供には、触覚過敏の子もいます。さわさわ~って触られるのを嫌うこともあるので、ソフトに触るのではなく圧迫するような感じに触ったほうが良いこともあります。

 

では、実際に暴力が起こったときにどうするか。

衝動性によるパンチ、キック等の行動は、大人でもなかなか予測がつけがたく、事前に止めるのが難しいです。気づいたら事が終わって、お友達が泣いていることがあります。いろんな書籍を読んでも、今自分が関わるADHDの子に当てはまる症例報告に出会うことが難しいので、この方法が良いですよと、広く言えるものがないのが正直なところです。

私が取り組んでいるのは、前もって特に注意をしておく、そして暴力が起こったときは、強く責めずに対象の子と、本児を離すことをしています。

また、暴力をふるう相手は決まっていることが多いです。自分より小さな子や、能力的に低い子とか、その子それぞれです。そういう子と接触が起きそうなときに、相手の子をいつでも守れるような意識を私たちがもっておくことです。

 

よくABA(応用行動分析)の無視と称賛の話があります。

広場で遊んでいる→職員を困らせるような行動をする→職員に注意され注目される

“善い行い”で注目を得ることではなく、”悪い行い”でもいいから注目を得て承認されたいという子供の心理です。

ABAの理論だと、困らせるような行動をしたときは無視をすれば、困らせても誰も構ってくれないと学習し、その行動は強化されず、おのずと行わなれなくなるのですが。

 

暴力は職員を困らせるというか、他の子どもの安全にかかわるので止めざるを得ないです。止めると注目されます。ですので、他害があると、なかなかABAを実践しにくいという印象が私にはあります。

 

最後に

ADHDのことを勉強してみて、もっといろんな人の実践例を学ぶ必要があると感じました。書籍や論文を読んで、ADHDの機序や脳の機能局在から見た病態を学ぶことはできます。実際は、目の前の子供にどのように関わればよいのかを知りたいのです。同じ個性を持つ人はいないので、結局現場で出会う子供一人一人に合わせたプログラムを考えて提供するしかないです。これからも勉強を続けていきます。