世の中をより一歩知る自己牧会ブログ

OUTPUT用のブログです。今を強く生き抜くために必要なことを分野問わず共有したいと思っています。

感覚統合とは? 〜噛み砕いて説明〜

こんにちは、まえぴです

療育に携わる専門職や障がいを持つお子さんを持つ親なら聞いたことがあると思います。「感覚統合」は、子どもがなぜ一般常識では考えられない行動をしているのか、その理解に役に立ちます。子供の立場になって考えることができるので、支援の在り方がとても変わるのです。子供がどのような状態になっているのかを理屈で理解することで、変に子供にイライラしてきついことを言ってしまったり、何をしていいのかわからなくなって放置させることもなくなるでしょう。しかし、この「感覚統合」は、いろいろな書籍で専門職でない方でもわかりやすいような簡単な言葉で書いてくれていて、普及が進んでいる一方で、実際の子供を目の前にすると、「感覚」って目に見えないものなのでなかなか理解が難しいという方もいるかと思います。この記事では、初心者が勉強して、なんでそういう解釈ができるの?など、初学者が感覚統合の書籍を読んで疑問に思うであろう内容をまとめていきたいと思います。

 

感覚統合Q&A 改訂第2版―子どもの理解と援助のために

感覚統合Q&A 改訂第2版―子どもの理解と援助のために

 

 

感覚統合(Sensory Integration;SI)とは

脳には自分の体と環境から感覚刺激を整理整頓し、環境の中で体を有効に使うことができるようにする働きがあります。感覚統合とは、その脳がいろんな感覚情報をまとめて、うまく使える形に組織化し適切な行動として表出することです。また、ひとが、身の回りの世界(外界)の中で、安心して、能動的に、目的的に、適応的に、外界と携わり、楽しさや自己効力感を高めることなどに貢献する機能とも言えます。

感覚統合の遊びが目指すところ

ブランコが上手になることが感覚統合の目的ではありません。周りにたくさん遊ぶものがあるのに、遊びを自分で展開できない子供が多くなっています。歩くのも下手、ジャンプも下手、真似して運動もできない不器用さがあって、「できない体」が「できない実感」を生みます。活動をする前から、「無理」「できない」という言葉を言う子供になります。ただし、できないものは、やらせないということではありません。例えば、勉強が苦手な子供がいるとします。テストで点数をとれなかったり、授業についていけなかったりして自信を失うこともあるでしょうが、勉強で失った自信は勉強で取り戻すしかないと思うのです。他に変えることは難しいです。なぜなら勉強からは逃れられないからです。しかし、好きと苦手は違います。運動は不器用だけど運動は好きだという子供も多いです。子どものできるところから、「できる!という実感」と「やりたいことができる体」を育み、やりたいことが自然と生まれるように、支援していくことが子どもの自律を高めてくれます。

感覚統合で大事にする3つの感覚

いわゆる5感とは、触覚、視覚、嗅覚、味覚、聴覚があります。しかし、感覚統合では、前庭感覚、固有感覚という自分の体の中で感じる感覚を大事にします。どの感覚も大切ですが、自覚しにくく無意識下で処理される前庭感覚固有感覚、そして触覚に焦点を当てて、子どもの行動を観察します。

前庭感覚

前庭感覚とは、すなわち重力を感じる感覚です。耳石という受容器がありまして、体が傾くと重力によって耳石が移動することで、毛(有毛細胞)が下に引っ張られます。この時、”下”を感じます。「”下”がわかる=”上”がわかる」ということです。これを受け取ることでバランス機能が保たれます。

筋緊張について

筋緊張とは、体を動かしていないにも生じる持続的な筋の収縮の状態のことを指します。通常姿勢を保つために、一定の筋緊張が生じているとともに、筋緊張の一定の幅によって、身体の安定性と可動性が保たれています。

バランスについて

バランスとは、姿勢を保ったり不安定な姿勢から速やかに回復させる能力のことです。例えば、歩行中に足でバナナを踏んで、滑ったとします。その時頭が動いて、前庭感覚が働きます。体幹・四肢の筋緊張を高め、姿勢の崩れを防ごうとします。

固有感覚

固有感覚とは、関節の動きや位置、動きに対する抵抗感などの刺激を感知します。固有受容器の中に、筋紡錘とゴルジ腱器官があります。体(関節)が動く=筋の長さが変わる(どこかの筋が伸びる)=Ib,Ia,Ⅱニューロンから求心的刺激が脳へ投射されます。つまり、筋をたくさん収縮させる=固有感覚をたくさん刺激することになります。

力加減

微細な力の調節には、固有感覚が関わっています。ペットボトルを飲むときに握りつぶしてしまう子は、物を持った時の質感から筋や関節に伝わる抵抗感を適切に感じることができず、程よい加減で持つことができていない状態です。このような子には、「”優しく”、”そーっと”持って」がわかりません。優しくってどれくらいなの?ってなります。

身体図式とボディイメージ

身体図式とは固有感覚からの情報を無意識的に処理し、自分の体がどのようになっているかを把握することです。身体図式はボディシェマとも言います。ある隙間を見たら、自分の体を横向きにしてすり抜けることができますが、これを無意識で行っています。これが身体図式です。また、見えていなくても肘が曲げられている、伸ばされているこれがわかるのも、身体図式です。混同しやすい言葉として、ボディイメージがあります。ボディイメージは無意識ではなく視覚が含まれた体の認識です。人物画を書くときはボディイメージを使っています。ある体操を子供に模倣させるとき、自分の視界に入る範囲であれば上手に模倣できていても、腕を視界より上や横など外れると上手にできないことがあります。見えないと適切に自分の体の位置を把握できていないので、この場合身体図式が未熟と言えます。

触覚

触覚とは、皮膚への刺激を感知し、対象の素材、形状を認識します。もともと体を守るセンサーの役割があるので、防衛機能があります。新生児は、母(人)と触れ合って、ここから自分の体、ここから外界と感じます。いわば、触覚は体の輪郭を感じると言えます。触覚と言えば触覚過敏という言葉があります。その感覚の感じ方に対する配慮をし、嫌な感覚は感じにくいようにすることも必要です。例えば小麦粉粘土を遊んでいるときに、いつでも手洗いができる、手袋を用意する、道具を介して遊べる準備をする、困ったときにヘルプカードを用意しておくなどの配慮をしておくとよいでしょう。

子どもの行動の理解

つま先立ち

運動麻痺がなく、日常は踵を付けて普通に歩いていても、時々つま先立ちやつま先歩きをしている場合があります。理由として、足の裏の感覚が過敏で、特定の感触の上では足裏を付けることができない場合があります。靴下を履いているときは、足の裏をしっかりつけることができても、裸足ではできない時があります。他の理由として、感じにくい感覚(固有感覚と前庭感覚)を感じようとしている場合です。どのような時に感じにくい感覚を感じるかと言いますと、テンションが高い、興奮しているときにもつま先立ちになることがあります。

激しい遊びを好む

固有感覚を使う=筋肉をつかうということです。

すっきりさせたい、気持ちを落ち着かせたい(脳を沈静化させたい)。そういう時に、固有感覚を使う行動が増えてきます。だから、人にかみつく、突進する、トランポリンを行うという行動になります。

落ち着かなくてうろうろしている

前庭感覚を求めている行動と言えます。歩行は、固有感覚も入りますが前庭感覚のほうが多く入る活動です。足りない刺激を自分で補うために行います。くるくる回ったり、ブランコに乗り続けたり、そういう行動を継続することで、脳の覚醒調整を行っています。結果的に多動で落ち着きのない子に見えます。

介入の原則 

感覚欲求を(sensory need)を満たす活動を十分に提供すること

※やりたいことばかりやらせていたら、ずっとピョンピョン跳ねることが癖になってこだわりになるのではないかと意見言う人がいます。しかし、臨床的には、その感覚を強く求めることはなく、満たされて求めなくなると言われています。

②一日の中に静的活動と動的活動をバランスよく組み込む

好きな感覚を含んだ遊びを提供すると、苦手な感覚も受け入れてもらいやすいです。

遊びの提供するときの考え方

すべての遊び(活動)には、前庭感覚、固有感覚、触覚は含まれています。ただ、どの感覚が一番入っているのかを、メインの感覚なのかを考えておく必があります。

前庭感覚の遊びは、ブランコ、コーヒーカップ、スクーターボード、ロール、走るなどです。

固有感覚の遊びは、腕相撲、押し相撲、重たいものを運ぶ、雑巾がけ、お尻歩きやアヒル歩き等の負荷の掛かる姿勢で移動するなどです。

触覚の遊びは、砂遊び、ボールプール、小麦粉粘土などです。

ただ、遊びは遊び方によって、どの感覚がメインになるかが容易に変わります。例えば、ボールプールはさわさわ~と触るのであれば触覚の入力がメインですが、高いところからダイブして筋への刺激を楽しんだり、この中でずっといるとリラックスする子もいて失禁する場合もあり、固有感覚の入力がメインとなります。

もう一つ、区別して理解しておいたほうがよい遊びの提供の仕方があります。感覚を”入れる”遊びと感覚を”使う”遊びは違うということです。例えば、前庭感覚を入れる遊びはブランコです。しかし、前庭感覚を使っているのではなく、ただ入っているのです。一方で、前庭感覚を使う遊びは平均台です。しかし、前庭感覚が入っているのではなく使っているのです。平均台は、前提として前庭感覚がある程度できないと、その遊び自体を遂行できません。

また別の例を出します。固有感覚を入れる遊びは、ロープを引っ張るなどの踏ん張り遊びです。その遊びを通じて姿勢保持の経験を促します。一方で固有感覚を使う遊びは、ジャングルジムをくぐるなどの身のこなし遊びです。この点は区別しておいたほうが、遊びの目的をはっきり説明できる療育を提供できるでしょう。介入の原則にもあるように、苦手な感覚や活動に克服してもらうことは必要ですが、まずsensory needを満たす活動を十分に提供することが重要です。sensory needを満たす活動というのは、その感覚が自然と入る遊びのことです。それと、バランスを使う遊びや身のこなしの遊びは区別しましょうということです。

 

 

最後に

感覚統合の理解を深めるには、書籍やセミナーで知識を深めるだけでなく現場やお子さんの様子を観察することが大事です。観察するにしても知識がなければ、単なる行動として流れてしまいます。また子供の味方になるには、共感的理解を必要とします。共感は気持ちでわかってあげるだけではなく、知識が必要です。なぜなら、知識がないと、「なんでそんなにトランポリンやっているの?」、「無駄に走り回っているなぁ」とか思います。自閉症の感覚は、ふつう我々にわからないものです。しかし、気持ちだけではなく知識を身に着けることで、彼らの脳には意味のある行動なんだと思うようになると思います。従来のやり方にとらわれず、支援を創造していきましょう。